大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)2685号 判決

被告人 戸高シマ子

〔抄 録〕

よつて考察するのに、原判示事実は、原判決挙示の証拠によつて優にこれを認めることができ、記録及び当審事実取調の結果によるも、原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるということはできない。(被告人が、故国から三百数十里を隔てた旅先で本件詐欺の罪の嫌疑を受けて検挙されたため、被告人の心神に、失神ないしは異常の状態を生ずるに至つた事実及びそれによつて被告人の自白にその真実を疑わしむるに足るものあるを醸すに至つたということは、記録及び証拠上これを認め得るに由なきは勿論、被告人の自白を補強する証拠として原判決が挙示している各被害者等の供述調書の供述内容に殊更事実を曲げて陳述したというようなその証明力を疑うべき事由も記録上認めることができない。尤も、当審証人鶴丸末一の証言だけによるときは、原判示共謀の事実を認め得るには、必ずしも明らかであるということはできないけれども原判決挙示の鶴丸末一との共謀事実を明らかにしている被告人の自白を内容とする各供述をも総合して考察するときは、その共謀の事実もまたこれを認められないことはなく、被告人の供述を採つて鶴丸末一との共謀の事実を認定したことには畢竟事実誤認の誤はないばかりではなく、元来、証拠上被告人の実行にかかる犯罪の成立を認め得るものがある以上、他人との共謀事実についての自認を内容とする供述につき、必ずしも、補強証拠を要すべきかぎりでないものと解すべきであるから―最高裁判所第三小法廷昭和二四年(し)第一八四号同二五年二月七月決定参照―後述の如く、被告人の実行にかかる犯罪の成立を認め得る本件において、原審が、被告人の鶴丸末一との共謀にかかるという趣旨の被告人の自認を内容とする供述のみを採用してその趣旨の事実を認定したことには採証上の違法ありということもできない。)なるほど、詐欺の罪は、行為者において、不法領得の意思をもつて、相手方に欺罔手段を施し、これにより相手方をして本来の欺罔を真実であると誤信せしめた結果、その者から財物の交付を受くるにより成立し、事の性質上、その欺罔手段が、一般の常識通念に照らし、時の事態として、相手方をして錯誤に陷らしむるに足る程度のものであることを要するは、所論のとおりであるが、被告人が本件取引においてその売渡した反物類の真実奄美大島産でないことを知りながらその反物類の端に大島織又は大島紬なる文字の染出あるを奇貨として、真実奄美大島の者のように見せかけるため、わざわざ薩摩弁等を使用して、奄美大島産の反物類であるかどうかの判別力を持たない相手方に対し「自分は、奄美大島の者だが、父母の織つた反物を旅費にするため貰つた者だが買つてくれ」と全く虚構の事実を申し向け、時価僅かに合計四千六百五十円又は三千九百円相当の人絹又は絹及び人絹交織の反物類を原判示各被害者にそれぞれ一万五千円又は七千円の高価に売り渡してその代金をそれぞれ被害者から受け取つたものであつて、その欺罔手段が優に相手方を誤信せしむるに足るものであつたことは、取引一般の通念常識に照らし、時の事態として否定し得べくもなく、その所為の態様において到底右詐欺の罪の成立あるを免かれない。原審が、証拠により右に副う事実を認定して、被告人を詐欺の罪に問うたことは、まことに正当である。原判決には、証拠によらずして事実を認定した違法もなければ、憲法第三十八条の規定に違背するの過誤もない。所論は採用するに由なく論旨はすべて理由がない。

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